
私たちは夫婦で建築の仕事に携わり、気がつけばもう30年以上が経ちました。もともとは店舗の設計や、デザイン事務所で空間づくりに携わっていたのですが、店舗づくりを進める中でロゴや印刷物のデザインなども任されるようになり、次第に建築全体のプロジェクトに関わるようになっていきました。そして、ある時から思うようになったのが「もっと人の暮らしに寄り添う仕事がしたい」ということ。住む人の心に届くような空間をつくりたい――そんな想いから、今の“家づくり”へと自然とシフトしていったのです。その中で私たちが大切にしているのは、「自然素材を活かした、体にも心にもやさしい家づくり」です。
ホタテ漆喰と出会って気づいた、空気のちがい
私たちの事務所の壁には、「ホタテ漆喰」という素材を使っています。これは、名前のとおりホタテの貝殻からつくられた漆喰で、真っ白でとても美しい素材。見た目はシンプルなのに、空間にどこかあたたかみが生まれ、ここにいるだけで心と体がふっとほぐれるような、不思議な感覚があるんです。実際にこの素材を取り入れてから、事務所の空気の澄み方が明らかに変わったと感じています。初めて来られた方に「空気が気持ちいいですね」と言っていただけることも多く、この感覚の正体のひとつがホタテ漆喰なのだと思っています。
●ホタテ漆喰の主な効果
調湿効果:湿度が高いときは吸湿、乾燥しているときは放湿し、快適な空気を保つ
防カビ効果:アルカリ性の性質により、カビや菌の繁殖を防止
消臭効果:生活臭やペットのにおいなどを吸着・分解
空気清浄効果:ホルムアルデヒドやVOCなどの有害物質を吸着・分解
難燃性:天然素材のため燃えにくく、有毒ガスも発生しにくい
暮らしの中で何気なく吸っている「空気」が、こんなにも素材に左右されるのかと、ホタテ漆喰と出会って改めて気づかされました。
もみの木の香りが、暮らしにやさしさを届ける
事務所の床材にも使用している「もみの木」も、私たちが大切にしている素材のひとつです。ほんのりと凹凸のある表面は素足でも心地よく、冬場でもヒヤッとせずにあたたかみを感じられます。木の繊維の中に空気を含んでいるので、断熱性や防音性にも優れているんです。もみの木は、昔からかまぼこ板や寿司桶などにも使われてきた木材で、抗菌性が高く、「フィトンチッド」と呼ばれる香りの成分が空気を浄化する作用を持っています。この香りがまるで森林浴をしているようで、室内にいながら深く呼吸したくなるような、やさしい空間を生み出してくれるのです。実際に、もみの木を取り入れた部屋で、シックハウス症候群の症状が改善したというお声もいただいています。
●もみの木の主な効果
空気浄化効果:香り成分フィトンチッドが空気中の化学物質を分解
調湿効果:木材が呼吸するように湿気を吸放出し、室内を快適に保つ
抗菌・防虫効果:菌や害虫の繁殖を抑える
断熱・防音性:内部に空気を多く含み、温度変化や音をやわらげる
リラックス効果:香りによって副交感神経が優位になり、心が落ち着く
足ざわりのよさ:やさしいクッション性で、素足でも快適
「どんな家を建てるか」よりも「どんな想いで建てるか」
私たちが家づくりで一番大切にしているのは、「人と人との信頼関係」です。家を建てるというのは、その方の暮らしや人生に深く関わる、非常に大きな出来事。だからこそ、どんな素材を使うか、どんな間取りにするかといったことよりも、「一緒にどんな思いでつくるか」「どんな関係性を築けるか」を何よりも大切にしたいと考えています。素材選びに悩んだり、打ち合わせを重ねる中で交わす言葉。引き渡しの日に見せてくださる、あたたかな笑顔。そのすべてが、家という空間に“想い”として宿っていくのだと思っています。家づくりはもちろん大切ですが、それ以上に信頼関係が土台となってこそ、心から満足できる家が完成すると信じています。
自然に還る、やさしい家を
私たちの家づくりの理想は、「壊れたときには土に還るような、自然にやさしい家」。できる限り産業廃棄物を出さず、自然と共生できる家づくりを目指しています。現在の住宅は30〜40年で建て替えられるケースも多いですが、私たちはできれば50年、100年と住み継いでいけるような家づくりがしたい。そのためにも、構造や素材の選定にはとことん向き合い、無理に流行を追うのではなく、「暮らしの本質」を見つめながら設計しています。
長く付き合える家づくりのパートナーとして
自然素材を使った家づくりには、見た目の美しさだけでなく、住む人の健康と心地よさを守る力があります。私たちは、その素材の持つ力を信じ、これからも一棟一棟、丁寧に、心を込めて家をつくっていきます。家を建てたあとも、何かあればいつでも気軽に声をかけてください。「困ったときに思い出してもらえるような存在」でいられることが、私たちにとって何よりうれしいことです。